その日、つるるんとんに来たお客さんは、カワウソ君です。
少し伸びた髪を気にしながら、椅子に座るなり宣言しました。
「今日は、絶対寝ない!」
つる君とるんちゃんはカワウソ君の凄い意気込みにビックリしました。
「何か、
理由があるんですか?」
「前に来たとき、
気持ちよすぎて……
ほとんど覚えてないんです」
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それが、どうにも惜しい。
せっかく来たのに、
記憶がない。
だから今日は、
全部、ちゃんと感じて帰る。
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まずは、つる君のヘアカット。
チョキ、チョキ。
静かな音が、店内にひびきます。
カワウソ君は、
必死に目を開けています。
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でも――「寝ない!」
・・・でもまぶたが、
ゆっくり、下がってきました。
「・・・・・。」
寝た。。。
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「……あ」
つる君は、
眠りかけたカワウソ君の頭を、
そっと支えます。
「大丈夫ですよ」
「起きてます。
ちゃんと」
そう言いながらも、
声は、少しだけ遠く。
「・・・・・。」
寝た。。。
⸻
つる君は何も言わず、
動かない頭に合わせて、
いつもよりゆっくり、
やさしくハサミを入れていきました。
カットは、
静かに、きれいに整いました。
「ここからは、
るんちゃんにバトンタッチです」
つる君がそう言うと、
るんちゃんが、静かに近づいてきました。
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まずは、お顔そり。
るんちゃんの手は、
とても軽く、
刃は羽のように肌をすべります。
カワウソ君は、
気持ち良く眠っています。
つる君が
「起こさなくていいのかな?」
るんちゃんは、
小さく首を振ります。
「疲れてるみたいだから。
このまま眠らせてあげましょう」
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続いて、
お顔の毛穴洗浄。
あたたかさと、
すっと抜ける感じが、
顔いっぱいに広がります。
「……あ」
カワウソ君の声は、
もう、ほとんど息だけ。
毎日、
顔にためていたものが、
静かに、流れていくみたいでした。
その時、
あまりの気持ち良さに
寝てしまっていた事に気づき慌てて
「寝ていません!」と。
急に慌てて起きたカワウソ君を見て、
るんちゃんはビックリした後、
その様子が可笑しくなって大笑い。
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「まーまー。
ゆっくりして帰ってくださいね。」
るんちゃんが言いました。
「こんなに、疲れを
ためこんでたんですね」
るんちゃんは、
そっと微笑みます。
「がんばってた証拠ですよ」
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そして、
極みヘッドスパ。
るんちゃんの手が、
頭をやさしく包み込みます。
押すでもなく、
引くでもなく。
ただ、
そこにある感じ。
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呼吸が、
深く、ゆっくりに変わっていきます。
肩の力が抜け、
しっぽも、だらん。
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しばらくして。
「……はい」
るんちゃんが声をかけると、
カワウソ君は、
少し時間をかけて返事をしました。
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鏡の前。
整った髪。
明るくなった顔。
なんだかとても嬉しそうなカワウソ君。
カワウソ君は開き直ったように「今日もよく眠れました。」と笑いました。
つられてつる君もるんちゃんも笑いました。
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カワウソ君の帰り際、
つる君は言いました。
「全部、
起きてなくてもいいですね」
るんちゃんも
「そう、そう。
ここではゆっくりリラックスしてくださいね」
カワウソ君は照れ臭そうに
「ありがとう。また来るね」
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つるるんとんは、
がんばらなくていい場所。
つる君が、
安心して任せられる形をつくり、
るんちゃんが、
そのまま、ゆるめてくれる場所。
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カワウソ君は、
帰り道で少し笑いました。
「全部、起きてなくてもいい」
その言葉が、
不思議と、胸に残ったからです。
つるるんとんは、
がんばる人を休ませる場所。
がんばれない日も、
ちゃんと迎えてくれる場所。
今日もまた、
誰かの一日が、
やさしくほどけていきました。
〈おわり〉