ある夕暮れのこと。
つるるんとんのドアが
ちりん、と鳴りました。
入ってきたのは、
大きな丸い目をしたフクロウ君。
けれど、その目は
どこか冷たく見えました。
「……予約しています。」
低い声。
それだけ。
るんちゃんは
いつものように、やわらかくほほえみました。
「ようこそ、つるるんとんへ。」
⸻
1回目の来店
フクロウ君は、
終始、無表情でした。
つる君が髪をカットしてる時も、
鏡をじっと見つめるだけ。
お顔剃りも、
お顔の毛穴洗浄も、
極みヘッドスパも、
「……はい。」
「……大丈夫です。」
そっけなく、低い声で受けごたえするだけ。
仕上がりを見ても、
表情は変わりません。
「……どうも。」
そう言って、
すっとそっけなく帰っていきました。
つる君は、
少し首をかしげます。
るんちゃんは、
小さくうなずきました。
「喜んでもらえなかったかなぁー」
⸻
数週間後。
今日も気持ち良い朝。
ちりん、とドアが鳴りました。
あ、少し髪が伸びたフクロウ君。
同じ無表情。
同じ短い言葉で
「前回と同じで!」
カット。
お顔剃り。
お顔の毛穴洗浄。
極みヘッドスパのときだけ、
ほんの一瞬。
羽が、ふわりと
ゆるみました。
ロナが、
そっと足元に座ります。
フクロウ君の羽先が、
わずかに動きました。
けれど帰るときも、
「……どうも。」
やっぱり、無表情で帰っていきました。
そして数週間後。
今日も気持ち良い朝。
ちりん、とドアが鳴りました。
あ、また少し髪が伸びたフクロウ君です。
同じ無表情。
同じ短い言葉で
「前回と同じで!」
つる君は前回と同じように
カットしながらフクロウ君に思いきって聞きました。
「もし、
気になるところがあれば、
遠慮なく言ってくださいね。」
すると、フクロウ君は、目を瞑ります。
そして、ぽつり。
「……いや。」
さらに、少し間をあけて
呼吸を整えて、恥ずかしそう言いました。
「……とても、いいです。」
つる君とるんちゃんは、
顔を見合わせました。
フクロウ君は続けます。
「……昔から、
“怖い”って言われるんです。」
「怒ってるの?って。」
「機嫌悪いの?って。」
「笑ってるつもりでも、
伝わらない。」
大きな目が、
少しだけ潤みました。
「だから、
感情を出すのが、
怖くなりました。」
つる君は、
涙を見ないフリをしました。
そしてポツリと話しました。
「ここでは、
無理に笑わなくていいですよ。」
「羽が少しゆるむだけで、十分です。」
その瞬間。
ほんの、ほんの少し。
フクロウ君の口元が、やわらぎました。
それはとても小さな変化。
でも、確かな変化。
⸻
それから
フクロウ君は、
つるるんとんの常連になりました。
相変わらず、
口数は少ない。
帰るときも、
「……どうも。」
でも。
ドアを出るとき、
羽が
ほんの少し
軽くなっているのを、
つる君とるんちゃんは、ちゃんと知っていました。
〈おわり〉