PICTURE BOOK — STORY 12

うわさの風で迷った うさぎ君

2026.03.04 公開

ある春の午後。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵01

つるるんとんの扉が、そっと開きました。

入ってきたのは、

真っ白な毛並みに、少しだけ疲れた目をした――

うさぎ君でした。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵02

耳はぴんと長いのに、

どこか自信がなさそうに揺れています。

「今日は、全部お願いします。」

ヘアカット、

お顔剃り、

毛穴洗浄、

そして、極みヘッドスパ。

つる君は、

にこりと笑って言いました。

「もちろんです。今日は、どんな風に整えましょう?」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵03

うさぎ君は、少し迷ってから言いました。

「……かっこよく。

 みんなが“すごいね”って言ってくれる感じに。」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵04

どうやら、うさぎ君は

“うわさの風”に振り回されているようでした。

「○○君は最近人気らしいよ」

「△△さんの髪型が今いちばんおしゃれらしい」

「フォロワーが増えたらしい」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵05

そんな言葉を聞くたびに、

うさぎ君の胸は、ざわざわします。

“ぼくも、すごいって言われたい。”

“置いていかれたくない。”

つる君がハサミを入れます。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵06

ちょき、ちょき。

うさぎ君の前髪が、少し軽くなりました。

「前髪の長さはどうですか?」

つる君がやさしく聞きます。

うさぎ君は、

「……どうかなー?僕は短めが好きです。」

少し考えて、つけ加えます。

「でも、前髪は長め方が流行っていますよね……じゃー長めのままで。」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵07

次はお顔剃りとお顔の毛穴洗浄。

るんちゃんは、

うさぎ君のお顔剃りをしながら、静かに言いました。

「うわさや流行りってね、

 風みたいなものなんです。」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵08

「強く吹くと、

 心の中まで揺らしちゃう。でも、

 風は止むし、また新たな風が吹きはじめます。」

お顔の毛穴洗浄の温かなスチームが、

うさぎ君の頬をやさしく包みます。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵09

ざわざわしていた心が、

少しずつほどけていきます。

極みヘッドスパ。

るんちゃんの手が、

うさぎ君の頭皮をゆっくりほぐしていきます。

雲の中でフワフワ浮いてるような感覚。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵10

こり固まっていたものが、

するすると溶けていく。

「……ぼく、

 いつも誰かと比べてた。」

うさぎ君の声が、

やわらかくなります。

「いいねの数とか、

 誰かに褒められたいとか。」

すると突然うさぎ君は、つる君に言いました。

「やっぱり自分が好きな短い前髪にしてください。」

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵11

つる君はニコッとして

「もちろんです」

ちょき。

その前髪を切るハサミの音は、

誰かと比べる気持ちを

切り落とす音のようでした。

施術が終わり、

鏡の前に座るうさぎ君。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵12

鏡の中のうさぎ君は、

流行りとは少し違う前髪でした。

でも。

うわさの風に吹かれず、

自分の好きな前髪の長さに表情も、凛としていました。

目の奥に、あたたかな光が戻っていました。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵13

「……これが、ホントのぼく。」

ロナが足元で、くるんとしっぽを振ります。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵14

それはまるで

“ほんとの自分に会えたね”

と言っているみたいでした。

帰り道。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵15

うさぎ君は、

スマートフォンを一度ポケットにしまいました。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵16

今日の写真を、

すぐに投稿するのはやめました。

まずは、自分の目で、

今日の自分を見てみようと思ったのです。

つるるんとんの店内には、

静かなやさしい空気が残りました。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵17

うわさの風は、

またどこかで吹くかもしれません。

でも。

自分を整える場所を知っているうさぎ君は、

もう、前みたいには迷いません。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵18

今日もひとり、

心が少し軽くなって、

つるるんとんから帰っていきました。

第12話 うわさの風で迷った うさぎ君 挿絵19

〈おわり〉

物語の舞台となったお店で、
あなたもととのいませんか。

絵本の中のつる君・るんちゃんが、実際に施術を担当いたします。
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