PICTURE BOOK — STORY 14

一番の読者

2026.03.27 公開

少し雨が降る夕方。

第14話 一番の読者 挿絵01

つるるんとんの扉が、

からん… と鳴りました。

入ってきたのは、

大きな甲羅を背負った かめ君。

第14話 一番の読者 挿絵02

肩は落ちて、

ため息ばかり。

つる君が

やさしく声をかけました。

第14話 一番の読者 挿絵03

「いらっしゃい。今日はどうされますか?」

かめ君は

少し疲れた声で言いました。

「……全部、お願いします。」

第14話 一番の読者 挿絵04

ヘアカット。

お顔剃り。

お顔の毛穴洗浄。

そして、極みヘッドスパ。

つるるんとんの

いつもの順番です。

まずは ヘアカット。

第14話 一番の読者 挿絵05

つる君のハサミが

静かに動きます。

ちょき…ちょき…

しばらくして

つる君が聞きました。

「どうされました?」

「先程からため息ばかりつかれています。」

第14話 一番の読者 挿絵06

かめ君は

鏡を見ながら言いました。

「ぼく、漫画家なんです。」

第14話 一番の読者 挿絵07

少し間があきました。

「……いや。」

「漫画家でした。」

「売れなくて。」

「家計は火の車。」

第14話 一番の読者 挿絵08

「奥さんからも言われました。」

かめ君は

小さく笑いました。

「そろそろ

ちゃんと働いてほしいって。」

第14話 一番の読者 挿絵09

ハサミの音だけが

店に響きます。

「だから今日」

「決めたんです。」

「漫画家、辞めるんです。」

第14話 一番の読者 挿絵10

つる君は何も言わなかった。

第14話 一番の読者 挿絵11

次は るんちゃんのお顔剃り。

るんちゃんが

温かいタオルを

そっと乗せました。

第14話 一番の読者 挿絵12

かめ君が

ぽつりと言いました。

「息子がいるんです。」

「亀吉って言います。」

るんちゃんが

静かに聞きます。

「何歳ですか?」

「八歳です。」

第14話 一番の読者 挿絵13

少し間があきました。

「今日」 

「漫画を辞めるって

伝えました。」

かめ君は

小さく笑いました。

「そしたら」 

「大泣きされました。」

第14話 一番の読者 挿絵14

「なんでやめるの!って。」

「ぼく、パパの漫画

大好きなのにって。」

かめ君は

目を閉じました。

第14話 一番の読者 挿絵15

「家にいられなくなって」

「逃げてきました。」

お顔剃りが終わり、

次は お顔の毛穴洗浄。

細かな泡が 

静かに顔を包みます。

第14話 一番の読者 挿絵16

かめ君は

つぶやきました。

「でも」

「家族を苦しめる夢は」

「夢じゃないですよね。」

泡がゆっくり

流れていきます。

最後は

極みヘッドスパ。

第14話 一番の読者 挿絵17

るんちゃんの手が

ゆっくり頭をほぐします。

静かな時間。

しばらくして

るんちゃんが

やさしく聞きました。

「漫画は」

「本当に

やめたいんですか?」

第14話 一番の読者 挿絵18

かめ君は

少し考えました。

「……いいえ。」

「でも」

「家族を守らないと。」

第14話 一番の読者 挿絵19

るんちゃんは

静かに言いました。

「じゃあ」

「守りながら」

「続けるのはいかがですか?」

第14話 一番の読者 挿絵20

かめ君は

目を開きました。

「え?」

第14話 一番の読者 挿絵21

「昼は働く。」

「夜は描く。」

「夢って」

「仕事じゃなくても」

「続けていいと思います。」

第14話 一番の読者 挿絵22

ヘッドスパが終わりました。

鏡の中のかめ君。

さっぱりした髪。

そして

何か吹っ切れるたような

明るくなった目。

第14話 一番の読者 挿絵23

帰り際。

つる君がかめ君に

「どんな漫画を書かれているんですか?」

第14話 一番の読者 挿絵24

かめ君は笑顔で甲羅から

スケッチブックを

取り出しました。

つる君とるんちゃんは

つる君の漫画に興味津々。

かめ君がスケッチブックを

広げた瞬間、

第14話 一番の読者 挿絵25

はさまっていた

小さな紙がひらひらと

床に落ちました。

第14話 一番の読者 挿絵26

「ん?」

かめ君はスケッチブックから

落ちた紙をひろいあげると、

そこには

むすこの亀吉の字。

第14話 一番の読者 挿絵27

「パパのまんがだいすき」

その下に亀吉が描いた絵。

「ヒーローのパパ。」

かめ君の目から

ぽろりと涙が落ちました。

第14話 一番の読者 挿絵28

つるるんとんの外。

雨はいつのまにか

止んでいました。

かめ君はゆっくり

歩きながらつぶやきました。

第14話 一番の読者 挿絵29

「昼は働こう。」

「でも」

スケッチブックを

ぎゅっと抱きしめます。

第14話 一番の読者 挿絵30

「夜は漫画家だ。」

かめ君の漫画には

一人の読者がいました。

そしてその読者は

家で続きを

待っていました。

第14話 一番の読者 挿絵31

〈おわり〉

物語の舞台となったお店で、
あなたもととのいませんか。

絵本の中のつる君・るんちゃんが、実際に施術を担当いたします。
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